踏ん張るあなたは私たちの宝物

【兵庫県三田市】この中に人がいるなんて誰が想像するだろう。増金眞澄さん(55)=地区女性部長=は、長女・望美さん=女子地区副リーダー=の身に着けたウエディングドレスの中。立ち姿の娘の両足に腕を回し支えていた。望美さんも倒れないように足に力を込める。
本年4月14日。脳性まひなどの障がいがある望美さんが、ウエディングドレス姿を写真に収める「ソロフォトウエディング」に挑戦した。
日常生活では全面的な介助が必要。一人で立つことはかなわない。しかし、この日は母の力を借りて車いすから立ち上がり、飛び切りの笑顔を家族や友人に見せた。

プランナーと4カ月もの打ち合わせを重ね、撮影に臨んだ望美さん。会場は自宅に近い有馬富士公園。純白のドレスは肩ひものないタイプ。普段は控えている口紅や、上向きにカールさせたまつげ、ヘアメークも希望通りに施すと、「シンデレラみたい」とうれしそう。
望美さんには、どうしてもかなえたい願いがあった。「バージンロード」を、父・優さん(63)=地区部長=と一緒に歩くこと。両親を驚かせるため、ひそかに歩行練習を続けてきた。
弟・信幸さん(31)=男子部員=に支えられ、望美さんがすっと立ち上がる。ここまでは練習通りだ。“私の足、動け!”。心の中でそう叫んだが、思ったよりドレスが重い。後ろから眞澄さんがしゃがんで足を出すのを手伝い、察した優さんも望美さんに近寄る。エスコートされて歩き始めると、曇り空の切れ間から、太陽も祝福するかのように、光の筋が差し込んだ。
「今日の望美を見ていると、あの日の先輩の言葉がよみがえります」。母はそう言って目頭を押さえた。

望美さんが1歳の時。眞澄さんは、娘のことで創価学会の先輩に相談した。先輩は夫婦の目を真っすぐ見つめて言った。
「障がいがあることを世間からかわいそうな目で見られるかもしれない。でも、そんなことは気にしなくていい。この子は、あなたたちの宝物だ。“娘を三国一の花嫁に”って強く祈るんだよ」
花嫁? まだ気が早いし、障がいのある娘は結婚できるのだろうか……。でも、うれしかった。夫婦の背中を支え続ける言葉になった。「この子の成長が私たちの希望だ。何があっても娘を守り、幸せを祈り抜こうって」
望美さんは小学校に進むと、多くの友人に恵まれた。中学2年からは、寄宿舎付きの特別支援学校へ。自立心を育むことができた。障がいが理由で、自己嫌悪になることもあったが、周囲の優しさに支えられ、自分自身を認められるようになった。
成人してからは、ありのままの自分で生きることの大切さを伝えようと、小学校などで講演活動を行っている。

「頑張ることよりも、踏ん張ること」――家族全員が大事にしている言葉だ。
昔は「頑張れ、頑張れ」と口癖のように言ってきた眞澄さん。だがある時、望美さんにこう言われた。「頑張るのはしんどいから踏ん張る!」と――。
「これ以上、頑張れない時って誰しもあると思うんです。でも“踏ん張れ”って言われると、“あともう少し”って、グッと力を込められるような気がして」と望美さん。つらいリハビリも、そうやって乗り越えてきた。

5年前から、望美さんは体力の低下を感じるようになった。同じ障がいのある友人が早くに亡くなるのも見てきた。“今の一瞬を大切に生きたい。そして、いつも支えてくれる両親を喜ばせたい”と、「ソロフォトウエディング」に臨んだ。
「親の私たちが祈り続けてきた通りの“三国一の花嫁”姿を見せてくれました」と優さん。
望美さんは、当日の様子や今後の決意を池田先生への手紙につづった。その後、先生から激励が届く。
池田先生の〈限りなく 希望に生きゆく 人生は 幸福の道なり 創価の道なり〉の和歌を胸に、家族で広布に励む毎日。望美さんは何度断られても諦めず、20人目の対話で聖教購読を実らせた。
「この体で産んでもらったから、私は素晴らしい両親や家族に会うことができたんです。言葉の大切さや優しさも知りました。この体は、お母さんとお父さんからもらった“最高のプレゼント”であり、私にしかない武器だと思っています」
眞澄さんは、宝の娘をそっと抱き締めた。


