常に100%の力を出せるチームに
夏の合宿シーズンを迎えている創価大学駅伝部。“夏を制する者は、箱根駅伝を制す”――春のトラックシーズンから見えた課題を踏まえ、夏合宿で心身を鍛え抜いている。8月上旬、長野・上田市菅平高原で行われた1次合宿を取材した。


標高1300メートル。平均気温19・5度。都心よりも太陽を近くに感じるが、吹き抜ける風が最高に心地よい。朝は少し寒いぐらいだ。
場所は、長野・菅平高原。創価大学駅伝部の合宿地である。
日の出から間もない今月3日の午前5時過ぎ。トレーニングウエアに身を包んだ選手たちが、宿舎から練習会場へと走っていく。
約30分後、全体での体操がスタート。「1、2、3、4……」。澄んだ空気に、さわやかな掛け声が響く。
この日は、午前に自主練習と体幹トレーニング、午後にポイント練習が予定されていた。
体操を終えた選手たちは早速、自主練習を開始。高地トレーニングに最適とされる地で、それぞれが考えたメニューをこなす。
夏合宿の目的を榎木和貴監督に聞いた。
「夏合宿は3回行います。箱根駅伝は一区間20キロ以上を走るので、スタミナの強化が求められる。その土台づくりが合宿の目的です。8月は月間走行距離の目標を900キロに設定しています」
創大駅伝部は例年、夏の1次合宿を菅平高原、2次合宿を新潟・妙高高原で実施。徹底して走り込み、強い“脚づくり”に挑む。
続く3次合宿は二手に分かれ、北海道・深川で実践に対応したロードの練習、御嶽山(岐阜・長野の県境)で山上り・山下りの強化に取り組む。
「合宿では、監督に指示された練習内容だけでなく、選手たちが自分に足りないものを自ら考え、プラスアルファの要素を織り込んで走ることを求めています」
榎木監督はこう言った後、今回の合宿で乗り越えるべきは「精神的な面が8割です」と力を込めた。
さらに練習面では「試合が多かった春は、じっくりと距離を踏む練習が足りていなかった。そこを確実にクリアしていきます」とも。
「強い脚をつくり、考えて走る」――監督が訴えるこの2点は、春のシーズンで浮き彫りになった創大の課題だった。


自分と向き合う
今チームのテーマは「『速さ』の先の『強さ』の追求」である。
そのために、競技力と共に「人間力」の向上を掲げ、“どんな条件下でも、自分の力を100%出し切る走り”を目指した。
だが、6月の全日本大学駅伝対校選手権大会の関東地区選考会で、創大は14位と振るわず、大学三大駅伝の一つである全日本大学駅伝の出場を逃してしまう。
走り終えた選手たちは「中盤以降、粘り切れなかった」と口をそろえた。序盤は先頭集団に付いていったが、中盤を過ぎてから徐々に失速。その原因を監督は「脚ができていなかった」と振り返る。
地区選考会は各大学の選手が2人ずつ4組に分かれ、1万メートルを競う。創大はトラック種目にも強い箱根常連校に対抗するため、昨年よりも質の高い練習に挑み、走る「速さ」を磨いてきた。
ただ、「追い込まれてから粘る『強さ』がなかった」(監督)。厳しい練習の時に、もう一歩踏ん張って限界を超えられるか。弱さと向き合い、課題の克服に取り組めるか。練習以外での体のケアや体幹の強化などを大事にできるか。
「高い意識を持って“これは誰よりもやった”という、一つ一つの積み重ねが自信につながる。それが足りていなかったんです」
選考会を終えた日の夜、寮では全体ミーティングが開かれた。チームの現状を榎木監督が厳しくも冷静に伝える。選手たちも学年ごとに集まり、さまざまな意見を出し合った。
4年生は、練習、試合、生活の全てで模範を示すことを改めて確認。チームが勝つために「強気の姿勢」を貫くことを決めた。
人数は7人と、他学年と比べて少ないが、三上雄太主将、永井大育副主将、嶋津雄大選手、小野寺勇樹選手の4人が箱根路を走った、経験豊かな世代。三上主将は言う。
「自分は言葉で引っ張るのが苦手。でも、それが得意な同期が補ってくれる。仲間に支えてもらいながら、常に強気を心掛け、背中で皆をリードしていくつもりです」


きょう何をすべきか
彼ら4年生の「強気の姿勢」は、夏合宿で随所に表れていた。
3日午後のポイント練習。菅平高原スポーツランド陸上競技場で、10人前後の四つの集団によるインターバル走が実施された。一定の速さで400メートルトラック1周のランニングと半周のジョギングを交互に繰り返す、厳しい練習だ。
最初の集団の最後尾には、主力の一人である嶋津選手の姿があった。自らも限界に挑みながら、前の選手たちに必死で声を掛けている。そのげきに応え、集団の走りにも一段と力がこもる。
練習前、嶋津選手はこう話していた。「チームとして、いい意味で危機感を持って合宿に取り組めていると思います」
4年生をリーダーとする「縦割り班」が、例年以上に機能している点も大きいという。
チームには、「月間走行距離の集約」「月間MVPの投票の集計」「掃除」など、班ごとの担当業務があり、学年の垣根を越えて班員全員で取り組んでいる。
合宿前には、各班でミーティングを開催。班員同士が互いの目標や課題を共有した。
合宿中も、朝の練習時に班で集まり、一人ずつ“きょう一日、何を意識し、何に挑戦するか”を発表。練習後に皆で一緒に体をケアする班も見られるなど、チームワークは日を追うごとに強くなっている。
「全日本大学駅伝の地区選考会を経て、チームの雰囲気が引き締まり、『考えて走る』意識が高まりました」と三上主将。
初出場となる10月の出雲駅伝、そして、明年1月の箱根駅伝へ――創大駅伝部は現在、新潟・妙高高原で“勝負の夏”を駆けている。



