〈創価大学駅伝部 2021-2022 vol.3〉スポーツライター・酒井政人氏にインタビュー

創価の“攻めの走り”に期待

明年の箱根駅伝へ、創価大学は着実に調整を続ける。11月に多くのメンバーが自己記録を更新し、箱根のエントリー争いは熾烈さを増す(11月23日、東京・八王子市の創価大学池田記念グラウンドで)

 明年1月2、3日の第98回東京箱根間往復大学駅伝競走(箱根駅伝)まで残り1カ月。前回大会で初の往路優勝、総合準優勝に輝いた創価大学は、本番に向けて着々と練習を重ねている。今回の箱根駅伝の見どころ、創価大学が躍進するポイントについて、箱根経験者でもあるスポーツライターの酒井政人氏に聞いた。(聞き手=田島大樹、西賢一)

さかい・まさと 1977年生まれ、愛知県出身。東京農業大学1年時に出雲駅伝5区、箱根駅伝10区に出場。大学卒業後、スポーツライターとして主に陸上競技を取材。さまざまなメディアで執筆している。2018年7月から本年3月まで、本紙の連載コラムを担当した。主な著作に『新・箱根駅伝 5区短縮で変わる勢力図』(角川新書)、『ナイキシューズ革命 “厚底”が世界にかけた魔法』(ポプラ社)など

箱根駅伝戦国時代 レースの流れが勝負を決する

 ――昨今の大学駅伝は“戦国時代”といわれるほど、各校の実力が伯仲しています。今回も大混戦が予想される箱根駅伝のポイントを教えてください。
 
 11月の全日本大学駅伝は、トップが6回も入れ替わりました。今回の箱根駅伝も、どこが勝つか分かりません。最後まで目が離せないレース展開が予想されます。
 
 出雲駅伝を加えた大学三大駅伝の中で、箱根駅伝は最も距離が長く、遅れたタイムを巻き返すのが難しいという特徴があります。
 
 体調不良などで大きなミスが出ると、強豪校でも優勝はおろか、シード権の獲得も厳しくなってしまいます。

 駅伝で大切なのは「レースの流れをつくること」です。序盤でミスをすれば、そのまま悪い流れで下位を走り、追い上げるのが困難になります。
 
 その意味で、1区から良い位置でタスキをつないでいけるかどうか。そこが大きなポイントです。
 
 創価大学は前々回大会で区間1位、前回大会でトップと15秒差の区間3位と、1区で良い流れをつくり、2区以降につなぎました。
 
 榎木和貴監督は2年連続で1区に日本人エースを起用していますから、やはりレースの流れを強く意識しているのだと思います。

今年の箱根駅伝で、3区・葛西選手からタスキを受けた4区・嶋津選手。力強い走りで先頭に立ち、往路優勝を引き寄せた(1月2日)

 ――創価大学の注目選手や見どころは?
 
 まずは嶋津雄大選手(4年)です。前々回大会は10区で区間新記録を出して初のシード権獲得に大きく貢献しました。前回大会は4区で先頭に立ち、往路優勝の立役者の一人になりました。2年連続でドラマチックな走りを見せてくれています。
 
 彼はとにかくロードに強い印象です。今回は、どの区間を走っても面白いのではないでしょうか。
 
 留学生のフィリップ・ムルワ選手(3年)も安定感があります。この1年でより強くなったように感じます。
 
 もう一人は、5区の山上りを走った三上雄太選手(4年、主将)です。昨年11月の“仮想箱根5区”の大会「激坂最速王決定戦2020」で優勝した実力を発揮し、区間2位と好走しました。

11月13日に行われた「激坂最速王決定戦2021」の出場者。創価大学の三上主将(最前列中央)は5位に入り、2年連続で好走を見せた(神奈川・アネスト岩田ターンパイク箱根で)

 今回、5区を希望している新家裕太郎選手(3年)も好調だと聞いています。チーム内の競争にも注目したいですね。
 
 6区の山下りには、前回経験者の濱野将基選手(同)がいます。
 
 さらに、箱根駅伝は未出場ですが、10月の出雲駅伝を走った緒方貴典選手(同)、桑田大輔選手(2年)などが台頭し、選手層も厚くなってきています。
 
 あとは1区に誰を配置するか。1区は人選が難しい区間なんです。全体がスローペースになると、速い選手を生かせなくなってしまう。かといって、不安定な選手を選べば、大幅に遅れたときに取り返しがつかなくなるというリスクが生まれます。
 
 榎木監督のように1区に日本人エースを置くと、“攻めていくんだ”という気持ちがチーム全体に伝わります。トップと何秒差で2区につなげるか。そこが見どころです。
 
 往路から主力を投入し、上位争いができれば、目標の総合3位以上も見えてくるのではないでしょうか。
 

強い脚をつくる育成力の高さ

 ――創価大学の育成力をどのように見ておられますか。
 
 高校時代に全国レベルの実績がなかった選手たちが着実に力をつけ、4年生の時には区間賞争いをするランナーに成長しています。
 
 前回でいえば、1区区間3位の福田悠一選手、9区区間1位の石津佳晃選手などです。これこそ、創価大学の育成力のたまものですよね。
 
 前任の瀬上雄然さん(現・総監督)が土台をつくり、良いタイミングで榎木さんが監督を引き継いだのだと思います。
 
 榎木監督の指導で特筆すべきは、入学時から箱根で走ることを意識させ、月間走行距離750キロを徹底しているところです。

 750キロという距離自体は、他の大学も夏合宿の期間などで走ります。ただ、榎木監督は箱根を見据え、春のトラックシーズンから“強い脚”をつくるために継続してやらせている。ここまで意識をもって取り組んでいる大学は、なかなかありません。
 
 もう一つは、チーム全体でスマートウオッチを使って、走行距離などのデータを可視化している点です。全てのトレーニングでスマートウオッチを使用して、チームメート同士で共有している大学は少ないはずです。
 
 総合準優勝という結果により、今後は高校で実績を残した有力選手たちも入ってくると思います。学生陸上界をけん引し、将来的には創価大学から世界を狙えるような選手が出てきてほしいですね。
 

注目は1区と5区・山上り

 ――箱根駅伝を楽しみにしている読者の皆さんにメッセージをお願いします。
 
 前回の箱根駅伝は、創価大学の大躍進、そして最終10区の大逆転と、私が取材してきた23年の中で、最も印象に残る大会でした。
 
 来年の1月2、3日も、創価大学は面白い存在になると見ています。1区の出だしと5区の山上りに注目したいですね。
 
 大会は前回に続き今回も、新型コロナウイルス感染防止対策として、沿道での観戦自粛が呼び掛けられています。テレビなどで応援していただきたいと思います。