ブーム再燃「たぬきケーキ」の魅力は「ミスマッチ感」

「こんなん売れるんかなと思いながら、出してみると…」 

 この春、新聞メディアで一面に取り上げられるなど、ムーブメントがやってきている、「たぬきケーキ」。昔なつかしの味ながら、SNS映えするスイーツとして「捕獲したい」という人々も増えている。(2021/05/31)

「たぬきケーキ」

 その人気ケーキを、昔から展開するお店の1つが、神戸市長田区の洋菓子店『パティスリー・ド・ロマン』。2代目の須留原光浩さんは、先代からの技術を引き継ぎ、「たぬきケーキ」を送り出し続ける。

『パティスリー・ド・ロマン』の須留原光浩さん

「『たぬきケーキ』とは、昔からあるお菓子で、バタークリームで作った、たぬきの顔をしたケーキ。先代が商売を始めたのは、大阪万博の前年になる1969年でしたが、そのころは、冷蔵技術や保冷技術が進んでいなかったので、バタークリームのお菓子が主流でした。街にあるケーキ屋には、必ずといっていいほど、たぬきのバタークリームのケーキがあったようです。ところが、冷蔵技術が進み、生クリームのお菓子が主流になると『たぬきケーキ』が隅っこに追いやられてしまい、お店によっては消えてしまったようです」

 それでも、「しぶとく」作り続けてきた、同店。百貨店の催事販売などで、「こんなん売れるんかなと思いながら、こそっと隅っこに出してみると、意外とお客さんの反応がよかったんです。『なつかしいわ!』と飛びついてくれました」。人気ブロガーが取り上げて着々とネットで話題になるだけでなく、最近のインスタブームで、若い世代にも「たぬきケーキ」が波及していったという。

 その「たぬきケーキ」、一つひとつ表情が違うのも特色のようだ。「お店の店主の感性で決まりますね。型みたいなものはないんです。お店によって、耳がアーモンドだったり、クッキーだったりしますが、ウチはチョコレートで。カップケーキの上に、バタークリームをぴゅっと丸くしぼって、それにチョコレートをコーティングして、目をぴゅっと指でつまんでいます。シンプルで、かつ、難しい技術はそこまでないんですが、シンプルだからこそ“ごまかせない難しさ”もあるんです」。

 なぜ「たぬき」なのかという疑問もあるが、それは日本古来の親しみのある存在だからという説も。「西洋の洋菓子とたぬきのミスマッチ感も人気につながっているのかな」と、須留原さんははにかむ。

 バタークリームのケーキは、製作するうえで、手間もコストもかかるものとされる。それでも、「ウチでは切らさずにやっていて、こだわりがあります。『生クリームよりランクが落ちるというイメージを払しょくしたい』という思いで、バタークリーム(のケーキ)をやってきました」と思いを語る須留原さん。「カップケーキに生クリームをのせると水っぽくなるので、キュートなたぬきの顔はつくれない。バタークリームありきのお菓子」。そんな奥深さも備える「たぬきケーキ」。ますます魅力を感じずにはいられない。

 さらに、こだわりのケーキ作りを行う須留原さんを応援しようと、アーティストの平松愛理さんや、神戸のアカペラグループ「チキンガーリックステーキ」といった同級生たちも同店を訪れる。平松さんは実際に「たぬきケーキ」の製造にもチャレンジ。その様子を自身のYouTubeチャンネルでも紹介している。https://youtu.be/0_6PxxTJ_VE

 今年10月で創業52周年を迎える、街のケーキ屋さん。「(店のテーマは)季節感を大事にすること。こじゃれたケーキもいいですが、ウチの先代である父が大事にしてきたお菓子も、共存していきたい」という須留原さん。「ショーケースに二通り、私の代のお菓子と、たぬきケーキに代表される父の代のものがあるのですが、いまは『たぬきケーキ』にちょっと負けてしまっているので、私も頑張らないと」と気合いを込める。2代目も、豆乳と生クリームをプリンにした「クリームとうふ」などをヒットさせているアイデアマン。そんな須留原さんは、今日もおいしいケーキを作り続ける。

※『パティスリー・ド・ロマン』では、5月20日より「たぬきケーキ」のエコバッグ(550円、税込み 店頭販売のみ)も登場! 鉄人28号の大きなモニュメントが目を引く神戸の下町・新長田で、「たぬきケーキ」とともに手に入れておきたい。また、人気の「たぬきケーキ」は、「どうしてもという方はお電話を」と須留原さん。問い合わせは電話078-611-9580まで。

※ラジオ関西『078RADIO』2021年4月25日、5月2日放送回の内容を再構成して、記事を作成しました


◆『パティスリー・ド・ロマン』
神戸市長田区二葉町 4-7-15
営業時間 9:00~19:00
定休日 水曜 (振替休日あり)